遍路旅 雑記帖

「こんぴらさん」について

2023年1月29日

「こんぴらさん」と言えば、誰もが香川県の琴平を思い浮かべると思いますが、「金刀比羅宮」には「こんぴらさん」がいなくなっている事(※)を知っているでしょうか。私は88カ所と同時に巡った別格20霊場の徳島・箸蔵寺で知りました。箸蔵寺のご本尊は「金毘羅大権現」で、江戸時代までは琴平の奥の院とされていて、両方お参りするとご利益が増すと言われていたそうです。

金刀比羅宮 本宮拝殿。

そもそも、「こんぴらさん」が何かといえば、元々はガンジス川にすむワニの神様クンピラーが原点で、それが天竺霊鷲山の水神クンビーラとなり、飛鳥時代に役小角(えんのおづぬ)が琴平の象頭山でクンビーラに遭ったことで、山岳信仰と修験道が混ざった神仏混交の「金毘羅大権現」が生まれたようです。そして、長らくは琴平の「松尾寺金光院」で「金毘羅大権現」が海上交通安全を願う「こんぴらさん」として親しまれてきました。

高台からの展望。

しかし、明治政府が廃仏毀釈で神道を優先としたことで、政府と反りの合わない寺院は弾圧され、別当寺(神社と寺が一緒になっていたお寺)は神社を残して寺院の多くは廃寺とされてしまいました。徳島・箸蔵寺はお寺の宗派の関係で弾圧されずに存続することができたとお寺の方から聞きましたが、琴平の「こんぴらさん」はその影響があったのです。その結果、「松尾寺金光院」は「金刀比羅宮」に改められ、主神は「金毘羅大権現」と同体ということで「大物主(おおものぬし)」にされました。もともと神仏混交だった神様が人間の都合により舞台から降ろされてしまった訳で、なんだか神様に申し訳ない気がします…。(八十八カ所の別当寺では急に廃寺にされて再建するのが大変だったという話を聞きました)。この騒動は村名にも影響し、「金毘羅村」は「琴平村」になったそうです。「金毘羅」「金刀比羅」「琴平」が入り混じって使われるのはそういう理由があったのですね(湯布院、由布院のように合併が原因ではなかった…)。この他にも「金比羅」の表記がある場合は「金刀比羅」と同様で神社系のようです。

金刀比羅宮の参道石段。

今も「金刀比羅宮」の麓に松尾寺があると聞いたので不動巡りの途中で行ってまいりました。金刀比羅宮の階段を上る手前を左手に入ったところに小さなお寺はありました。

松尾寺までの路地。

昔からの仏像仏具経典の多くは売却、焼却されて、かろうじて持ち出した室町期の金毘羅権現像が本尊とされているそうです。

本堂。

「こんぴらさん」はどう思われているのでしょうか…。「人間は勝手だな」と思われているのか、「リタイヤして第二の人生をのんびりやってるよ」なのか…。神仏なのでそのような考えはないと思いますが、勝手に想像してしまいます。とにかく、こうした話を聞けたことにより、箸蔵寺と合わせてお参りすることができて良かったです。これも、何かのご縁かと思います。

松尾寺山門。

こちらは裏側の入口です。曼荼羅霊場の旗も立っていました。

※金刀比羅宮の側からすれば「大物主」が「こんぴらさん」であるのかもしれませんが、ここでは神様の交替でいなくなった「金毘羅大権現」を指します。名前もズバリですから。

(おわり)

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